計画・構想

若桜町~境界を越えて未来を拓く~総額100億規模・三県境広域観光経済圏創生プロジェクト~その全貌と課題

投稿日:2026年06月23日 01:13 更新日:

 鳥取県若桜町、岡山県西粟倉村、兵庫県宍粟市千種町~これら三つの異なる県に属する自治体が枠組みを越えて協力し、持続可能な地域経営を目指す一大プロジェクトが始まろうとしている。その名も「三県境広域観光経済圏創生プロジェクト(仮称)」 。

 令和8年6月22日に開催された「若桜町と八頭県土整備事務所との意見交換会」において、その野心的な事業内容と、実現に向けた高いハードルが浮き彫りになった。
 本誌は、このプロジェクトの経緯や具体的な内容、今後の予定と課題をまとめた。

1. 事業の経緯~点から面へ、観光とまちづくりのうねりを繋ぐ

 本プロジェクト発足の背景には、各市町村が現在個別に進めている有力な地域振興策が存在する。
 具体的には、西粟倉村における「大茅スキー場」の再整備や、若桜町が進める古民家・空き家を利活用した「NIPPONIA(ニッポニア)事業(分散型ホテル事業計画)」など、地域の生き残りをかけた事業が静かに進行している。
 これらを単一自治体の点としての取り組みに終わらせるのではなく、三市町村が県境を越えて連携し、周辺の観光、交通、地域経済を一体的に「再設計」し、広域的な経済圏へと昇華させるために構想された。

2. 具体的な事業内容~経済圏の創生と「道路ネットワーク」の接続

 プロジェクトが掲げる主な具体策は、大きく分けて「観光・経済の連携」と「インフラの整備」の2軸で構成されている。

広域連携コンテンツの作成と分析
 三市町村で「地域未来戦略」を策定し、広域連携がもたらす経済効果の分析や、県境をまたぐ新たな観光コンテンツの開発を行うことが不可欠とされている。

悲願の道路ネットワーク接続
 経済圏を機能させるための最重要施策として、以下のインフラ整備を計画・立案した。

1 主要地方道「若桜下三河線」(若桜町・宍粟市千種町間)の早期開通*

2 「西粟倉村道大茅線」の県道昇格

 これらを通じて、観光・交流の活性化、地域経済の循環拡大、さらには災害時に備えた防災・レジリエンスの強化や脱炭素社会の実現を将来的な目標と設定した。

3. 今後の予定:交付金申請と協議会設立へ

 プロジェクトは以下のステップで進めていく。

1. 地域未来交付金の申請(令和9年度当初)
 まずは協議会の運営費用等の財源を確保するため、令和9年度当初に国の「地域未来交付金」の申請を行う。

2. 三市町村による協議会の設立
 交付金の獲得等を見据え、三市町村で構成する協議会を設置。具体的な計画策定や事業実施へと移ります。設立時期は現時点で未定、詳細な進め方は今後の議論となるが、若桜町では今年7月以降に設立できるよう準備を進めていく見込みだ。

3. 各県への参画・整備要望
 当面は三市町村での取り組みとなるが、将来的には鳥取・岡山・兵庫の各県に対して参画を求め、道路整備に関する強力な要望活動を行っていく。

4. 浮き彫りとなった「巨額の壁」と今後の課題

 一方で、本プロジェクトの核となる「道路ネットワークの接続」には、非常に厳しい現実という課題が立ちはだかっている。意見交換会において、八頭県土整備事務所計画調査課から以下のような懸念と課題が取り上げられた。

100億円を超える巨額の事業費
 未開通区間である「若桜下三河線(若桜町・宍粟市千種町間)」の県境部は、直線距離こそ約4kmだが、約400mもの激しい高低差が存在する。適切な道路勾配を確保するためにはバイパス延長は8〜10km程度に及び、事業費は100億円を超えると想定される。

事業再開への高いハードル
 同路線は平成10年から事業が中止された経緯があり、再開を勝ち取るためには、単なる移動の利便性だけでなく、「県境を越えた地域間交流」や「地域振興施策」によってどれだけ具体的な活性化効果が生まれるか、緻密な整備手法の検討を証明しなければならない。

兵庫県・岡山県との情報共有と負担
 この道路整備や村道の県道昇格は、鳥取県側だけでなく、兵庫県や岡山県にも相当な財政的・事務的負担を強いることになる。そのため、まずは三市町村が連携した具体的な取り組み状況を鳥取県に提供すること、そして兵庫県・岡山県への早期の情報共有と合意形成を進めることが急務の課題とされている。

総括

 県境という目に見えない壁を越え、「持続可能な地域経営」を官民一体で目指す三県境プロジェクト。100億円超のインフラ投資を国や県に納得させるためには、若桜町のNIPPONIA事業や西粟倉村のスキー場再整備をフックとした、圧倒的な誘客実績と経済効果のシミュレーションを三市町村が提示できるかが鍵となる。三市町村によるこれからの具体的な議論と仕掛けに、大きな注目が集まっている。

備考

 以下に意見交換会での若桜町と八頭県土整備事務所のやりとりを掲載した。

【若桜町・武田政策統轄監(国から出向)】
 武田統括監は「まだ中身は固まっていないのですが、将来的には道路の関係ではないかな、ということで本日議題として取り上げさせていただきました。本町と接している岡山県西粟倉村、兵庫県宍粟市千種町、その中でも旧千種町、この3つの地域で連携し新しい経済圏を構成できないか、という試みを現在検討しています」と事業の初動について説明。

 さらに「具体的な中身ですが、西粟倉村が大茅スキー場の再整備を今年度から取り組まれるといった話ですとか、若桜町でもNipponia事業という若桜宿の分散型ホテル事業計画など大きなプロジェクトが進行しており、観光や交通、地域経済などで新しいネットワークを再設計しようという試みです」と話した。

 また「将来的には、当然経済が一体となってくればロードネットワークの接続というところ視野に入れて、市町村で一緒になって動いていく。それが大きな目標となっています」。
 今後の事業の進め方についても「まずは3市町村で構成する協議会を行政のみで設置し、広域連携について議論・計画策定などに取り組み、必要であれば交付金の申請やその他単独事業の実施等を行いたいと考えています」と近い将来の構想について具体的に説明した。


武田統括監(左から3人目)

【八頭県土整備事務所の回答】
 これについて、八頭県土整備事務所の田中副所長は「直線距離なら大体4キロぐらいなんですけど、約400mの高低差がありますので、その中で道路を作っていこうと思えば、おおむね10キロ ぐらいのバイパス道整備になるのかな、というのが印象です。そうなると事業費もおおむね100億を超えるでしょう。
 そもそも、この事業は平成10年から事業中止となっていますし、やはりその事業再開するにあたって3市町村の連携は不可欠になります」と話し、「今年7月以降に協議会が設立されるということですが、その状況や動向などについては、我々にも情報共有していただきたい」と前向きに話した。


八頭県土・田中副所長(左)

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